地震の記録(1)

ケータイの着信履歴を見ると、「03/11(金)14:46」になっている。都内で会議をしていた私のケータイに、ずいずいから電話がかかってきた着信履歴。「今日、あなたが帰ってくる時、ママは留守にしているから、おばあちゃんちでお留守番しててね。とりあえず、H駅(我が家の最寄り駅の1つ隣りの駅。ずいずいはそこで別の路線に乗り換えて通学している)に着いたら、一度ママに電話して」と言っておいたのだ。(その日、ずいずいは短縮授業で、いつもよりかなり早く下校していた。)

ず「ママ、いまH駅に着いたよ~」

私「分かった。じゃあ、おばあちゃんに電話して知らせてね。あ、そうそう、今日、可愛く踊れてたよ。(←午前中、小学校で授業参観があった。ダンスの授業の発表会で、舞踊劇を披露した)」

ず「ほんと? あんまりかっこよく踊れてなかったんじゃない?」

私「ううん、なかなかよかったよ。もっと上手な子もいたのかもしれないけど、ママの目には一番可愛く見えたよ」

ず「そう? ありがと♪」

私「じゃあ、気をつけて帰るんだよ」

ず「うん、ママもお仕事頑張ってね。じゃあねー♪」

電話を切った直後、足元がぐらりと揺れた。いつもの地震とはまったく違うイヤな揺れ方で、しかも、かなり長く続いた。

尋常ではないことが起きているのだと感じた。そして、「もしかしたら、今日、ここで、自分は死ぬのかもしれない」と思った。「そうか、私の人生はこんなふうに終わる筋書きだったのか…。案外あっさりと唐突に終わるものなんだな…」と。

最初の揺れが収まったとき、すぐにずいずいのケータイに電話をしたけれど、既に通じなくなっていた。でも、「もう地下鉄を降りて、地下に閉じこめられてはいないって分かっているし、電話を切ってすぐに揺れたから、次の電車に乗って閉じこめられてもいないだろう。まだきっと駅にいるはず。…義母に電話が通じなくなっても、近くに交番もあるし、お友だちのおうちもあるから、きっとなんとかなる。あの子ってば強運。絶妙のタイミングで下校してきたんだわ。よかった…」と思えたので、動揺はしなかった。

「もしもこれが大震災の始まりで、私が今日死ぬことになるのだとすると、さっきの電話がずいずいとの最後の会話になるんだな…。ああ、良かった、会議がちょうど一段落しているところだったから、短くて素っ気ない返事をしないで済んだし、怒ったり小言を言ったりしないで、ちゃんと優しい声で会話してあげることが出来た…」とも思った。その考えが、すごく私をほっとさせてくれた。そんな状況でほっとするなんて、なんだかおかしな話かもしれないけど、そうだった。

一緒に会議をしていた人たちの中には、私の他に女性があと2人いたのだけど、1人はパニックを起こして泣き叫び、もう1人は表情が固まったまま動けなくなってしまっていた。「余震がひどいから、すぐに外に出るのは危険。しばらく様子を見よう」「非常階段へのドアを開けておこう」などという男性スタッフの声を聞きながら、私は、スケジュールノートの最後の頁に、ずいずいへの短い手紙を書き始めた。いざという時の遺書のつもりで。「最悪の場合でも、どうかこれがずいずいの手元に届きますように…」と祈りながら。繰り返しやってくる余震に、船酔いのように気分が悪くなったけど、そんなことはどうでもよかった。

その文章を書いている時、「さちさん、こんな時に仕事してるの? なんで平気なの…?」と、それまでフリーズしていた女性が泣きそうな顔で尋ねた。「どうしてだろう? きっと、かなり図太いんですねぇ…」とだけ答えたのは、結婚して長くたつのに子どもがいない彼女の気持ちを思ったから。「娘が助かると分かったから安心して死ねるの」というのが本音だった。「これっきりずいずいに会えなくなるのは淋しいし、まだ9歳なのに母親が死んじゃうなんて可哀想だけど、仕方ない。素直で芯の強い子に育っているから、あとのことはなんとかなるだろう。ずいずいに何かあって私が生き残るっていうよりも、こっちの方がずっといい。神様、仏様、ご先祖の皆様、ずいずいをお守りくださってどうもありがとうございます…」とも思った。

何度目かの大きな余震が過ぎた時、ふとエレベーターを見たら、エレベーター本体(?)と、ビル本体との間に隙間が出来て亀裂が入っていた。「このビル、ヤバいかも」と誰かが言い、非常階段で外に出ることになった。らせん状の階段を下りる途中も大きな揺れがあって、一瞬、ふわりとジェットコースターにのったような感覚を味わった。大勢の人たちの悲鳴が響く。

外に出て、しばらく待機している時に、ずいずいにメールをした。メールの到着も時間がかかるだろうから、これを読むのは数時間後になるかもしれないな…と思ったが、一応。「地震大丈夫だった? 地震の影響でしばらくは電話がつながらないと思うけど、落ち着いてね」と。そうこうしているうちに、神戸の友人から電話が入った。地震のニュースを見て、すぐに心配して電話をしてくれたのだ。こちらから電話の発信はまったく出来なくなっていたけれど、地震の影響がない地域からかかってきた電話の受信は出来たというわけ。「都内で仕事をしている時に地震がきたから、ずいずいとは離れている」「ずいずいは下校途中で1人でいる。かなり不安に思っているはず。電話して安心させてやりたいけど電話が通じない」と言うと、彼女が、「こちらからかければ通話出来るみたいだから、私がずいずいのケータイに電話しようか?そして、さちからの伝言を伝えてあげる」と言う。「是非そうしてもらいたいところだけど、あの子には、知らない電話番号からかかってきた電話には絶対に出るなと言ってあるのよ。でも、ありがとう」と答えて、ひとまず電話を切った。

そうこうしている間に、タクシーが1台もいなくなった。電車が止まったので、急いで移動したい人たちはタクシーをつかまえたんだろう。「とりあえず、大きなターミナル駅に行けば、情報も入りやすくなるだろう…」と思い、ひとまず東京駅まで歩くことにした。歩いている途中、ヒビが入ったビルだの、崩れたブロック塀だのを見かけた。会社に用意してあったらしいヘルメットをかぶって帰路についている会社員も多かった。救急車や消防車のサイレンがあちこちで響き、ヘリコプターが何台も飛び始めた。

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この記事へのコメント

さく
2011年03月14日 14:21
記録としてのブログにコメントを残していいものか、と思いましたが、節電の必要が今のところ無い地方のためコメント書き込みます。
記録は途中のようですが、皆様ご無事のようで、安心しました。

今回の未曾有の大災害にただ言葉を失います。と同時に生きている人が、もっと強くなって団結して支えていかねばならないと心から思います。

電話、ホッとした気持ち分かります。最後の会話が小言だったら…。でもそういう人たちが山のようにいるだろう事、また下校時でお互いの消息が分からない親子、すべて飲み込まれてしまった人たち、どれをとっても耐え難い事ばかりです。
ともかく皆が出来ることを考えて実行していかねばなりません。
つーじい
2011年03月14日 18:30
電車が止まると東京はあんなふうになってしまうんだね。東京に働きに来ている人たちのほとんどが、家に帰らずに会社に残るとなると、あんなにも短時間に食べるものがなくなるんだなとびっくりしたよ。たぶん、あの日に都内にいた人でなければ、たとえ千葉・埼玉・神奈川など近隣の人たちでも、東京のあの脆さは理解できないんじゃないかと思う。
三日月
2011年03月14日 23:55
さすがというか、やっぱり組長は男前だよなあって思った。

私はそこまで腹をくくることができない。
たいていの女は、その場にいた女性のように、泣き叫ぶかフリーズするかだもん。

みんなが組長みたいに冷静に行動できたら、もっと混乱しなかったんじゃないかと思いました。
さち
2011年03月15日 09:04
さくさん

コメントありがとうございます。そうなんです、午後3時ちょっと前だったので、子どもたちは下校途中だったり、まだ学校にいたりで、親と離れていたんですよね。電話が通じるようになるまで長く時間がかかったので、家族がお互いの無事を確認できるまで、皆、かなりのストレスだったと思います。

義妹は保育士なのですが、揺れている時、「こんなにたくさんの子たちを1人も怪我させずに避難することが出来るだろうか…?」と、そのことで頭がいっぱいだったそう。交通網も電話も麻痺したので、子どもたちの保護者が迎えに来るまでも、相当時間がかかったようですし。

今回の件で反省したのは、ずいずいとの連絡にケータイを頼りすぎていたこと。非常時、ケータイが機能しなかった場合にどうすればいいのか、打ち合わせをしていませんでした。それから、義父か義母にケータイメールのやり方を覚えておいてもらわなかったこと。(メールは1~2時間で使えるようになったのです)これを機に、我が家の非常時マニュアルを作成しておかなくては…と思いました。
さち
2011年03月15日 09:08
つーじい

こうなってみると、自分の日常生活のほとんどの側面は、東京電力という一企業が機能しなくなると崩れてしまうんだな…と、その依存度の高さに愕然としたよ。怖いことだね…。

あと、トーキョーって、都内で働いてる人たちが一晩過ごすだけの宿泊施設も食糧ストックもないんだな…ってことも。あんなにも短時間に食べ物がなくなるなんて衝撃でした。
さち
2011年03月15日 09:11
つっきー

たまたま、その直前にずいずいと連絡がとれていて、「なんとかなりそうな場所にいる」ってことが分かっていたから落ち着いていられたの。ずいずいの居場所が分からないままだったり、地下鉄に閉じ込められていたりだったら、半狂乱になって何も手につかなかったんじゃないかと思います。たぶん、ほんの数時間で胃に穴が開いたんじゃないかと。

自分の弱点はずいずいなんだな…と、思い知らされました。逆に、ずいずいさえ大丈夫だったら、他のことは何も怖くないんだな…ってこともよく分かった。